化学・物理化学作用を持つ洗浄剤は、汚れや洗浄の種類に応じて選定します。実際の洗浄プロセスにおいては、単一ではなく複数の洗浄剤を組み合わせて使用する場合があります。
汚れの種類
汚れの種類は、水溶性の有機汚れ、油性汚れ、固体汚れの三つに大別されます。実際の汚れは、これらが複合したものもあります。
水溶性の有機汚れ
水溶性の有機成分による汚れです。糖分などの比較的溶けやすい物質や、弱酸・弱アルカリ水溶液で溶解させる難溶性の汚れなどがあります。
油性汚れ
水ではほぼ溶解せず、有機溶剤等を使用して溶解させる成分です。成分や極性の大小、有無によって選定する溶剤が異なります。
固体汚れ
粉塵や微細粒子などの固体付着です。微細パーティクル等の無機の固体は、物質の表面状態により親水性と疎水性があります。
洗浄の種類
洗浄の種類は、剥離と溶解に大別されます。洗浄剤は、目的や用途に応じた成分設計が行われています。洗浄剤は、薬剤単価だけではなく、消費効率や再生の可否等を考慮した上で判断することが重要です。洗浄剤の価格は、一般に水系の洗浄剤が安価で、準水系および非水系の洗浄剤は割高となる傾向があります。
剥離洗浄
被洗浄物に付着する汚れや異物を剥離します。主に界面活性剤やアルカリ性洗浄剤を利用した水系洗浄プロセスで用いられます。
界面活性剤
界面活性剤は、親水基と親油基の両親媒性を持った分子構造で、液体である洗浄剤と固体である汚れと被洗浄物の界面に作用します。界面活性剤の主な性質として、界面張力の低下およびミセルの形成があります。界面活性剤は、はじめに浸透作用によって汚れの界面に入り込み、汚れを分離します。次に、乳化・分散作用によって、分離した汚れを液体中に保持し、被洗浄物への再付着を防ぎます。界面活性剤の成分は、活性に応じてイオン性(アニオン、カチオン、両性)と非イオン性(ノニオン)があります。
アニオン界面活性剤
疎水基が負のイオン(陰イオン)に電離する界面活性剤です。カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、りん酸エステル塩等があります。
カチオン界面活性剤
疎水基が正のイオン(陽イオン)に電離する界面活性剤です。石けんと逆の構造をもっているため、逆性石けんとも呼ばれます。
両性界面活性剤
アルカリ性領域ではアニオン界面活性剤の性質を、酸性領域ではカチオン界面活性剤の性質を示す界面活性剤です。洗浄性を向上させる助剤として広く使用されています。
非イオン(ノニオン)界面活性剤
イオン化しない親水基を持つ界面活性剤です。他の界面活性剤との併用が可能で、浸透性、乳化・分散性、洗浄性に優れます。
アルカリ性洗浄剤
アルカリ性洗浄剤は、汚れと被洗浄物の負の表面電位を高くすることによって、静電斥力を増加させて剥離性を引き上げます。pHを高めることで、汚れに負の表面電位が帯び、静電反発力を誘起します。一方、ヘテロ凝集体の場合は、同種に対する粒子の帯電は静電反発力を誘起し、異種に対しては、電荷が同符号であっても帯電量が異なる場合は近距離において引力を誘起します。分子間力の観点では、同種間では引力として働く一方で、異種間では引力にも斥力にもなり得ます。表面間相互作用力としての静電反発力とファンデルワールス力を包括して考慮する必要があります。具体的には、ファンデルワールス力で付着した微粒子は、静電斥力を高めるだけでは剥離しないことがあるため、超音波などによって機械力を作用させます。界面張力と機械力の双方が有効に作用するためには、適切な洗浄方式の選定および臨界ミセル濃度を踏まえた濃度や液温の最適化が求められます。
溶解洗浄
洗浄剤の溶解反応によって汚れを除去する洗浄法です。アルカリ性洗浄剤、酸性洗浄剤等の水系洗浄剤や、準水系洗浄剤、非水系洗浄剤(溶剤)により、汚れや油分、錆などを溶解して除去します。
水系洗浄剤
脂肪酸などの油脂成分は、アルカリ洗浄剤によって鹸化して溶解します。アルカリが油脂成分と反応して石けんに変化し、洗浄液中に溶解します。また、生じた石けん自体も洗浄に効果的に働きます。界面活性剤を使用する場合も、油性汚れがミセル内部に取り込まれて可溶化します。アルカリ洗浄剤は、水溶性加工油が付着した部品の仕上げ洗浄などに使用されます。金属部品を洗浄する場合は、アルカリと反応して腐食する可能性があるため、被洗浄物の素材に対して適切な防錆対策が必要になります。酸性洗浄剤は、金属の錆、スケール(無機塩類)、酸化膜や水アカの除去、めっきの前洗浄などに使用します。錆は金属の酸化であるため、還元作用を利用します。カルシウムやマグネシウム等の成分は、酸の作用で塩化物に変えて除去します。また、キレート剤によって金属イオンを結合し、錯体を形成させることで、溶解性を高めます。被洗浄物の材質によっては腐食する可能性もあるため、適切な洗浄剤を選定する必要があります。
準水系洗浄剤
準水系洗浄剤は、水系洗浄剤と有機溶剤などの非水系洗浄剤をブレンドした洗浄剤です。明確な定義はありませんが、水の含有量は数十%程度あり、溶剤系洗浄剤と比べて揮発性有機化合物(VOC)を減らせる利点があります。グリコールエーテル系やアルコール系、テルペン系、ピロリドン系など、豊富な種類が上市されています。分子内にエーテル基や水酸基を持ち、また極性を持った水溶性であるため、油分汚れだけではなく水溶性汚れにも溶解力があります。フラックスの除去洗浄や、金属加工における切削油洗浄等に使用されます。金属部品を洗浄する場合は錆のリスクがあるため、素材に対して適切な防錆対策が必要になります。
非水系(溶剤系)洗浄剤
主成分が有機溶剤である洗浄剤は、総称して非水系洗浄剤または溶剤系洗浄剤といいます。有機溶剤を単一成分として使用する場合もあります。溶剤系洗浄剤は、アルコール系、炭化水素系、ハロゲン系(フッ素系、塩素系、臭素系)があります。溶解性に優れ、また液性を持たない利点があります。
アルコール系洗浄剤
毒性が低く、人体への影響が低い利点があります。浸透性に優れるため、細部の洗浄が必要な場合に適します。吸湿性があるため、錆やシミの発生リスクがあります。他の有機溶剤と比べて油脂溶解力は低くなります。引火性を持つため、洗浄設備には防爆対応等の安全対策が必要になります。
炭化水素系洗浄剤
分子構造からノルマルパラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系、芳香族系の4種類に大別されます。油脂に対する溶解性が高く、また浸透性にも優れるため、高い洗浄性能があります。水系、準水系と比べて乾燥が早いという利点もあります。毒性が低く、比較的安価かつ蒸留再生によるリサイクルが可能です。引火性があり、洗浄設備には防爆対応等の安全対策が必要になります。
フッ素系洗浄剤
HFE(ハイドロフルオロエーテル)やHFO(ハイドロフルオロオレフィン)等があります。不燃性で熱的・化学的安定性が高く、また毒性が低いです。浸透性に優れるため、精密部品のパーティクル除去等に使用されます。蒸発潜熱が小さく乾燥性に優れる反面、洗浄剤は高価です。水洗浄後の水切り乾燥工程や、炭化水素系による洗浄後の置換およびベーパー乾燥(コ・ソルベント洗浄)等に用いられます。
塩素系および臭素系洗浄剤
不燃性で高い熱的・化学的安定性を持ちます。洗浄性は高く、乾燥性にも優れます。また、表面張力が低いため浸透性も高いです。塩素系洗浄剤は比較的安価で、臭素系洗浄剤は高価です。人体および環境への影響があります。PRTR法および環境関連法令に抵触します。
その他、IPAやトルエン、塩化メチレン、アセトン、エタノール等は、有機溶剤を単一成分として使用する場合もあります。
まとめ
- 汚れの種類は、水溶性の有機汚れ、油性汚れ、固体汚れがある。これらの複合汚れもある。
- 洗浄の種類は、剥離と溶解に大別される。
- 洗浄剤は、価格だけではなく、消費効率や再生の可否等を考慮して選定する必要がある。
- 洗浄剤は、水系、準水系、非水系(溶剤系)があり、それぞれに適した用途がある。
以下は、汚れの種類と洗浄剤の効果をまとめた表です。
※使用環境や個別の洗浄剤の特性により異なる場合があります。
液系統 | 洗浄剤 | 汚れの種類 | 備考 | |||||
油脂(水溶性) | 油脂(油性) | フラックス | イオン | パーティクル | 金属 | |||
水系 | 中性・アルカリ性 | ○ | △ | △ | △ | ○ | X | – |
酸性 | △ | X | X | △ | △ | ○ | – | |
準水系 | グリコールエーテル系 | △ | △ | ○ | ○ | ○ | X | – |
テルペン系・ピロリドン系 | △ | △ | ○ | ○ | △ | X | – | |
非水系 | アルコール系 | △ | ○ | △ | △ | △ | △ | 防爆対策 |
炭化水素系 | X | ○ | ○ | X | X | X | 防爆対策 | |
フッ素系 | X | △ | △ | X | X | X | 環境対策 | |
塩素系・臭素系 | X | ○ | ○ | X | X | X | 環境対策 |
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