漢方および固有の有効成分を持つ植物エキスは、医薬品や健康食品、食品添加剤として広く利用されています。漢方薬は、漢方医学の理論に基づいた、生薬を用いた医薬品です。例えば、有名な葛根湯は、葛根(カッコン)、麻黄(マオウ)、大棗(タイソウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)という7つの生薬を配合した医薬品です。漢方薬以外にも、緑茶カテキン、イチョウ、松葉、モリンガ、マカ、ウコン、オウレン、ゲンチアナ、トウキ、サラシア等、多種多様な植物抽出成分が、医薬品ないしは健康食品として利用されています。これらの商品の多くは粉末、顆粒、錠剤として流通しています。粉末は、液体と比べて質量と体積が減少するため、輸送コストをおさえることができます。また、乾燥品であることから長期間保存することが可能です。
漢方・植物エキス粉末の製造工程は、一般に以下の流れとなります。
秤量・調合→抽出・濾過→濃縮・殺菌→乾燥・造粒→充填・包装
秤量・調合
植物の原料は天然由来であるため、素材の成分バランスには一定のばらつきがあります。そのため、厳密な品質管理のもとで秤量および原料の調合を行い、品質を維持します。
抽出・濾過
温水や熱水、水蒸気等によりエキスを抽出します。抽出法は、浸漬式やドリップ式、マイクロ波方式等があり、抽出成分に応じて、温度や時間等の抽出条件を設定します。抽出エキスは、遠心分離機等による濾過後、濃縮工程に移行します。
濃縮・殺菌
抽出エキスは、エバポレーター等の低温濃縮工程で濃縮します。濃縮と同時、または次工程において殺菌を行い、乾燥工程に移行します。
乾燥・造粒
濃縮された抽出エキスは、スプレードライヤーにより噴霧乾燥し、粉末化します。スプレードライ粉末は、そのままの状態で製品となる場合や、品種に応じて追加の顆粒化または打錠機を用いて錠剤化を行います。
充填・包装
製品粉末や錠剤は、充填、包装工程を経て、箱詰された後に出荷されます。
漢方・植物エキスの噴霧乾燥は、一般に乾燥温度を低く設定して穏やかに乾燥させます。低温の運転条件の場合は、液体が緩やかに乾燥するため、かさ密度が高くなる傾向があります。高温条件では、液滴が短時間で乾燥するため、粒子の外殻形成が早まります。そのため、液滴の内部蒸発による粒子の膨張や破裂、中空化が生じることがあります。含水率については、低温条件が高く、高温条件が低くなります。液体噴霧方式は、ロータリーアトマイザー、二流体ノズル、一流体加圧ノズル、超音波ノズルから選定します。噴霧方式を選択する際は、噴霧液滴径だけではなく、物理的な接触および摩擦による影響も考慮にいれます。
原料面においては、吸湿性の高い多成分系が多いため、プロセス内における製品付着を適切に防止する設計が必要になります。具体的には、プロセスガスの全部または一部に除湿空気を導入します。加えて、乾燥チャンバーにエアスイーパーあるいは除湿エアラインを設置することがあります。また、粉体回収ラインの温度と湿度を適切に設定することが重要です。例えば、粉体の空気輸送時に、製品回収ラインの除湿エア量と温度、また輸送距離を最適化することにより、回収時における粉体品質を一定にする方法があります。酸化防止対策としては、添加剤の付与による原料液の調整以外にも、スプレードライヤーのプロセスガスに不活性ガスを使用することによって、プロセス面から酸化を防止することが可能です。
原料調合は、濃度や添加剤の有無、またその添加量が主要な指標となります。原液濃度を高くすると、単位時間当たりの蒸発水分量を下げることができるため、生産効率が上がります。一方、原液濃度は、製品の粒度や密度に影響するため、適切な値を設定する必要があります。添加剤や賦形剤の種類と添加量を調整することにより、成分残留率や、粉末強度、崩壊性、徐放性等を制御します。また、トレハロースや環状オリゴ糖のシクロデキストリンなどを添加し、特定成分のマスキング、安定化、風味改善を行うこともあります。
揮発性の成分は、通常は低沸点であるため、噴霧乾燥時に蒸発してしまいますが、マルトデキストリンやシクロデキストリン、オリゴ糖類等を添加することによって、成分を残存させることが可能です。例えば、シクロデキストリンは、疎水性の空洞内に、揮発性成分の分子を包接することで、噴霧乾燥時における成分の散失を低減することが可能です。そのため、製品の風味成分の徐放化に効果があります。また、粉末酒などのアルコール含有粉末も同様に、被覆性を持つ添加剤を適切な濃度で添加し、低温で噴霧乾燥することによって、高いアルコール残存率を保持した粉体を製造することが可能です。高品質の粉末酒は、再び水に溶解した際に、アルコールだけではなく、液体酒が持つ風味も復元することが可能です。
スプレードライは、一般に乾燥時に溶媒が液滴の表面から蒸発すると同時に、内部の水分が表面に移動することで、液滴全体が収縮します。水分の移動と同時に、液滴内の固形分が外側に移動しながら粒子構造を形成します。そのため、粒子は外殻の密度が高くなり、内部は低密度あるいは中空状になる傾向があります。また、懸濁液において、液体内に含まれる粒子成分が複数あり、それぞれの粒径や密度が異なる場合は、乾燥時の粒子移動によって造粒体の内部で偏析が生じることがあります。原料の物性や乾燥粒子の粒度、密度、内部構造等を把握し、その上で運転条件の適切な制御を行うことが重要です。
粉体製品の品質管理は、粒度分布、かさ密度、含水率が主要なパラメータとなります。これらに加えて、流動性や湿潤性、溶解性、色合い、味覚にかかわる粒子表面特性等を含める場合もあります。粒度については、大きい粒子は流動性が良く、容器に充填されやすいため、かさ密度は高くなります。小さい粒子はその逆となり、かさ密度は低くなります。かさ密度の数値が不安定な場合は、製品充填時の安定性が低下します。含水率は、大きい粒子は比表面積が小さいことから、乾燥時に水分の抜けが悪くなることで、水分値が高くなる傾向にあります。小さい粒子は、比表面積が大きいため水分が抜けやすく、水分値が低くなります。一方、吸湿性の高い粉体は、排気に含まれる水分を再吸湿することによって、小さい粒子が高水分値に、大きい粒子が低水分値になることもあります。
当社のスプレードライヤーは、漢方・植物エキスの噴霧乾燥工程における多数の実績があります。積み重ねた経験と実績から、要求品質を満たした最適なプロセス設計および運転条件設定を行います。スプレードライヤープロセスの諸条件を最適化し、粉体品質をコントロールする事が可能です。また、当社が開発したフリーズグラニュレーターは、スプレードライ製品およびフリーズドライ品の粉砕製品の弱点を解決することが可能なプロセスです。凍結造粒技術については、フリーズグラニュレーション(凍結造粒)とは、食品・医薬品における凍結造粒技術の優位性、生菌率を高く保持する – 菌体のスプレードライ(噴霧乾燥)とフリーズグラニュレーション(凍結造粒)等で紹介しています。
当社は、スプレードライヤー、スプレークーラー、フリーズグラニュレーターの粉体製造だけではなく、前後工程を含めたテスト・分析・測定サービスを提供しています。国内二拠点のパウダーテクニカルセンターおよびASEANパウダーテクニカルセンターの計三拠点において、顧客の課題を解決するために日々運営しています。2023年に新設した第二パウダーテクニカルセンター(PTC2)では、国内最大規模の分析・測定装置を取り揃えています。粉体加工だけではなく、原料調製から分析・評価までワンストップで対応する事が可能です(粉体テスト・分析・測定サービス詳細/粉体委託加工サービス詳細)。
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