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コラム#18 「これも発酵食品(その3)」
2019.09.27更新
「これも発酵食品(その3)」
ちょっと前に流行った「ナタデココ」、覚えていますか。
さらにその昔の「紅茶キノコ」、そして最近の「コンブチャ」。
これらは名前こそ違えども、主成分は全て同じです。
いずれも酢酸菌の作るセルロースで作られた食品です。
「ナタデココ」は「ナタ」+「ココ」、ココナツジュースからできた
「ココ」と言う意味です。
言い伝えによれば、昔々どこかのお婆さんがパイナップルジュースを
沢山作って保存していました。
そしてある日パイナップルジュースの表面に白くてブヨブヨしたものが
できたのだそうです。
腐ったものとして捨てれば良いものを、このお婆さんは果敢にも(意地汚く?)
食べてみたのだとか。
この「白くてブヨブヨしたもの」がナタ、つまり最初のナタは「ナタデパイン」でした。
以前にも紹介しましたが、酢酸菌はとても酸素を要求する細菌です。
そのため水溶液の表面に浮く性質があり、セルロースを作ってこれを
フロートにしているのではないかと考えることができます。
酢酸菌はセルロース合成のために特別な酵素複合体(いくつかの酵素が集合した細胞内器官的なもの)
を作って積極的にセルロースを合成しています。
しかも酢酸菌が作るセルロースは極細です。
太さは植物セルロースの1/1000位しかありません。
この極細を利用して高級スピーカーのコーンにも採用されています。
また食品添加物の増粘剤として、スープ等のとろみ付にも利用されています。
ヒトはセルロースを分解することができません。
そのため「ナタデココ」、「紅茶キノコ」、「コンブチャ」を食べると、満腹感があっても、
栄養にならずダイエット効果が期待できるということになります。
コンニャクと同じようなものですね。
でもセルロースはブドウ糖が重合した多糖類です。
そう、化学組成的にはデンプンと同じです。
ただし、ブドウ糖同士の結合方式が異なります。
たったこれだけの理由でデンプンは消化され栄養になりますが、セルロースは未消化物となります。
哺乳類でセルロースを消化して栄養にできるのは、牛馬等の草食動物のみです。
多くの草食動物は複数の大きな胃を持ち、その胃の中に微生物を共生させることでセルロースを消化しています。
それでもセルロースの消化には時間がかかるので、多くの草食動物は一日中大量に草を食べ続けなくてはなりません。
セルロースを分解する酵素をセルラーゼと言います。
現在知られている最強のセルラーゼは、トリコデルマ属カビ由来です。
これはベトナム戦争時に、兵士の服やテントを劣化させる原因として発見されました。
セルロースを分解してブドウ糖に変えることができれば、食料問題を回避する1つの方法となるでしょう。
そんな夢を目標に多くの研究が行われていますが、残念ながら未だに分解能力の高いセルラーゼは見つかっていません。
ヒトが利用できない植物の部位(作物の枝や葉等)にあるセルロースをブドウ糖にして、
これからアルコールを作る「バイオエタノール計画」も少し前に国内外で盛んに研究されました。
しかし、セルラーゼの分解能力が振るわないために、そのほとんどが実用化されていません。
セルラーゼは結構新しい(と、言っても地球年代的にですが)酵素なのでは?と考えられています。
植物が分解されないセルロースを獲得してから長い間は、セルロースを分解する生物が現れなかったため、
この時代の植物が石油等の化石燃料になったと考える研究者もいます。
強いセルラーゼが現れるのは、もっと先のことなのかも知れません。
技術顧問 博士(農学)
茂野 俊也(Toshiya Shigeno)