株式会社プリス

振とう機・振とう培養機 高圧蒸気滅菌装置

コラム#17 「これも発酵食品(その2)」

2019.09.09更新

「これも発酵食品(その2)」

乳酸菌は発酵食品界の名脇役です。
日本酒や味噌・醤油造りでは、雑菌汚染を防ぎ、香り成分を作ります。
でも、結構主役も張っているのです。
例えば漬物。
野沢菜の古漬けやキムチ等の酸味のある漬物では乳酸菌が作る乳酸が
味の決めてとなり、漬物を酸性にすることで保存性を高めています。

そして漬物は何も人間だけの食べ物ではありません。
「サイレージ」ってご存知ですか?
冬場のために牧草を嫌気状態で保存しておく畜産飼料です。
牧場の風景によくある背の高い円筒状の建物「サイロ」は、
サイレージを作り保存するためのものなのです。
サイレージは牧草を刈り取り、なるべく空隙が無いようにギッチギチに詰めて作ります。
大量に作る場合はサイロに詰めますが、最近では刈り取った牧草を丸めて真空パックする機械が活躍しています。
牧場で白い大きなビニールパックが並んでいる光景を見たことがある方も多いのではないでしょうか。

牧草の表面には多くの微生物が付着しています。
嫌気状態で保存されていると、まず働くのが乳酸菌です。
刈り取られた牧草には光合成でできた糖類を含む草液があります。
この糖から乳酸が作られ、酸性状態になります。
「酸性+嫌気性」の条件では多くの微生物が生育を止めてしまうので、保存性が高まります。
さらに乳酸菌が作る様々な香気成分は家畜の食欲を増進するのだそうです。
こんなサイレージを食べて肥育された牛の乳や肉が私達の食卓を飾るのですから、
乳や肉も発酵食品の賜物なのです。
さらに乳は加工されてヨーグルトやチーズになります。
勿論、これらも発酵食品です。

肉の加工でも微生物は活躍しています。
最近流行りの「熟成肉」は表面にカビが生えたりしています。
カビの生産するタンパク質分解酵素によって、タンパク質がアミノ酸に分解され、
旨味成分が多くなることは容易に想像できます。

また欧州の伝統的な「生ハム」。
実は”生”ではなくて、「発酵ハム」と呼ぶべきものなのです。
生ハムは精肉を塩浸けして、塩抜きした後に低温熟成させ、
さらに通風乾燥させて作られます。
この間は実に1年以上(最低でも16ヶ月)です。
加熱処理をしないので、”生”なわけですが、その表面では乳酸菌がしっかり働いているのです。
高塩分+低温条件で生育する微生物はかなり限られます。
しかし乳酸菌はこの条件でも意外と元気なのです(なにしろ漬物でも活躍する微生物ですから)。
肉の表面でゆっくりと生育し、乳酸を作ってpHを下げ他の微生物による汚染を防いでいます。
また香り成分を作り、生ハムの美味しさに一役買っているのです。
地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (正式略称 道総研)では、生ハム製造に適した乳酸菌を選抜し、
これを純粋培養して肉に添加することで、より良い生ハム製造法を開発しています。
特に香り高い生ハムができるようです。
生ハム以外にもサラミソーセージのようなドライソーセージも同じ様に乳酸菌の仕事です。

現在では肉を発酵させた食品はあまり多くありませんが、古代中国には肉醤(ししびしお)という珍味がありました。
文字通り、肉に塩と麹を加えて発酵したもので、魚醤(ナンプラー等)や醤油(豆の醤)の原型と考えられています。
かの孔子は肉醤に大変なこだわりを持っていたと伝えられています。
残念ながら(?)現代の日本では肉醤を食することは無理そうですが、魚を使った魚醤を作っているメーカーは結構あります。
有名なのは秋田県名物の塩魚汁(しょっつる)でしょうか。
最近流行りのお取り寄せで、是非とも味見してみてください。


技術顧問 博士(農学)

茂野 俊也(Toshiya Shigeno