振とう機・振とう培養機 高圧蒸気滅菌装置
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コラム#16 「これも発酵食品(その1)」
2019.08.01更新
これも発酵食品(その1)
酒、味噌、醤油だけが発酵食品ではありません。
「微生物を利用して加工された食品あるいは食品原料」とやや拡大解釈すると、
私達の食生活は発酵食品でいっぱいです。
例えばチーズ。欧州の食品という印象が強いですが、日本でも平安時代には「醍醐」と呼ばれた珍味でした。
いわば醍醐味とは「チーズの味」ということです。
またチーズ発祥の地はアジアでは?との説もあります。
「チーズが発酵食品なのは、知ってるよ。カビのついたブルーチーズとかあるし。」と思った方も多いはず。
確かにチーズの熟成過程は微生物を利用します。でも、それだけではなくチーズ作りの最初から微生物が活躍しているのです。
チーズは牛やヤギ等の動物の乳を脱水して固めたものです。
固まるのは乳中のタンパク質ですが、通常これは溶解あるいは乳濁(コロイド化)しています。
固めるためには乳中タンパク質を一部分解しては不溶性とします。
これには凝乳酵素と呼ばれるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の一つキモシンが使われます。
伝統的な凝乳酵素はレンネットと呼ばれる仔牛の第4胃の抽出物です。
つまりレンネットを取るためには仔牛を殺す必要があります。
可愛そうですし、仔牛を殺しては肉や乳が取れません。そこで代用品が研究されました。
なにしろタンパク質分解酵素は全ての生物が持っています。
探してみるとカビが作るタンパク質分解酵素に凝乳作用があることがわかりました。
しかし、長期熟成チーズにこのカビレンネットを使うと苦味が出る場合もあるようです。
そこで現在では仔牛キモシンの遺伝子を解析して、遺伝子工学の技術を使って微生物(大腸菌、酵母やカビ)に仔牛キモシンを作らせるようになってきています。
現在では凝乳酵素の60%位がこの遺伝子工学キモシンらしです。
この他、植物からも凝乳酵素が見つかっています。
各々の凝乳酵素には特徴があります。
仔牛キモシン以外の凝乳酵素を使うことで、チーズの味や風味、そして製法にも幅が生まれます。
このようにチーズ作りではスタート時点から微生物が活躍しています。
また凝乳酵素を乳に加える際に乳酸菌を添加する場合があります。
乳酸菌は乳中の乳糖を分解して乳酸に変え、乳を酸性にします。凝乳酵素は乳が酸性になった方が活性化します。
さらに乳酸菌も各種の酵素を持っているので、これらが後の熟成工程でも活躍するようです。
近代化された工場でつくる場合には、乳は殺菌工程を経て使われます。
添加される乳酸菌も決められた種類を純粋培養して利用されています。
しかし伝統的な製法を守るチーズ生産者の中には、自然に混入する乳酸菌(その工場に住み着いている?)を大切にしている場合もあります。
このような乳酸菌の違いはチーズの特徴的な風味のもとになっています。
勿論、チーズの熟成過程にはカビが重要な働きをしています。
タンパク質を分解することで、独特の柔らかさや食感を与え、旨味成分を作ります。
更に酸味や香りもカビによって作られるものです。
場合によっては、乳酸菌との共同作用もあるのかも知れませんが、詳細は解明されていないようです。
ナチュラルチーズには原料や製法の違いによって、1000種類以上があるとされますが、
さらに工場ごとの乳酸菌やカビの違いも加えると、そのバリエーションはどの位になるのでしょう。
熟成過程に費やされた時間や手間をも加味すると、膨大な種類の個性的な味が展開されているはずです。
そんなチーズの味を堪能する。これぞまさに“醍醐味”です。
技術顧問 博士(農学)
茂野 俊也(Toshiya Shigeno)