株式会社プリス

振とう機・振とう培養機 高圧蒸気滅菌装置

コラム#15 「残りを加えて微生物五人衆」

2019.07.10更新

前回、微生物三人衆として、麹カビ、酵母、乳酸菌を紹介しました。
でも“伝統的に”戦隊物は5人。
と、いうわけで微生物三人衆にもあと2種類追加で戦隊物です。
追加の2種類は「枯草菌」と「酢酸菌」、いずれも細菌です。

 


二種類加えて微生物戦隊

枯草菌

枯草菌が作る発酵食品は「納豆」です。
蒸した大豆に含まれるタンパク質を分解して、一部をアミノ酸に変えます。
この時に菌体の外に粘り物質(グルタミン酸ポリマー)を放出し、また独特の香り(人によっては臭み)を作ります。
枯草菌が生育することで、タンパク質が消化しやすくなるばかりか、大豆に含まれていないビタミン類も作られ、
栄養価が高くなります。

納豆作りに利用される細菌は納豆菌とも呼ばれます。
以前は独立した種として扱われたこともありましたが、現在では枯草菌の中の1つの株(品種的なもの)とされています。

枯草菌はその名の通り、枯れ草から発見されることがあります。
と、いうのも枯草菌は胞子(正確には芽胞)を作る性質があり、この胞子は乾燥や熱に高い耐性を持っています。
従ってカラカラに乾いた枯れ草の表面で他の微生物が死んだ後にも生き残るのです。
日本では納豆作りに稲ワラを使います。
稲ワラも枯れ草ですから枯草菌が沢山いるわけです。

納豆製造の現場では、蒸した大豆に加える枯草菌の元(種培養)を熱処理してから使います。
こうすると枯草菌以外の微生物は死滅して、枯草菌の胞子のみが生き残ります。
そして“生き残る”どころか、枯草菌の胞子は熱処理の刺激で生育を開始するのです。
加熱調理したはずのカレーがうっかり腐ってしまうのも、加熱刺激で目覚めた枯草菌の仕業です。 恐るべし枯草菌。

酢酸菌

酢酸菌はその名の通り、酢酸を作る細菌です(しかし分類学的には酢酸菌なのに、酢酸を作らない酢酸菌もいます)。
微生物三人衆(麹カビ、酵母、乳酸菌)が作ったエタノールを更に酸化して酢酸にします。
日本酒製造で最も恐れられる失敗は「火落ち」です。
これは酒が酸っぱくなる現象で、火落ち菌という酢酸菌の1種が引き起こします。
昔は火落ちを起こした杜氏は職を追われたとか。

これを逆手に取って酢酸(食酢)を作ったのが「粕酢」です。
日本酒を絞ったあとの酒粕にもまだアルコールが残っています。
従ってこれに酢酸菌を作用させれば、食酢が出来るわけです。
粕酢の製造は江戸時代後期に始まったとされ、安価な(原料は廃棄物の酒粕だし)食酢が作られたことが
江戸前寿司の発展につながりました。
もちろん米から作る酢はすでにありましたが、高級品だったようです。
粕酢は茶色をしているので、これを使った酢飯はほんのり黄色になります。
つまり、江戸前寿司の握りは“金シャリ”が本来なのです。
真っ白な銀シャリが登場するのは、無色透明の食酢(米酢)が大量生産され、安くなってからの事です。

枯草菌も酢酸菌も発酵食品製造では珍しく、酸素要求性が強い好気性菌です。
攪拌培養のための装置がない時代では、好気性菌を充分に生育させることは難しかったはずです。
しかし枯草菌は蒸した大豆、つまり固体状の原料の表面で生育することで、大気中の酸素を取り込んでいます。
また酢酸菌は水面に浮く性質があり、これにより直接大気に触れ、酸素を利用することができます。

原料、微生物そして培養条件。絶妙な組み合わせが納豆と食酢の生産を可能にしています。
ここにもまた発酵食品を作る職人達による長年の知恵の集積があります。


技術顧問 博士(農学)

茂野 俊也(Toshiya Shigeno