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コラム#14 「大抵の発酵食品は微生物三人衆が何とかしている」
2019.05.17更新
和食はユネスコの文化遺産に認定されたこともあり、世界的な流行になっています。
栄養バランスや盛り付けの綺麗さなどが認められたわけですが、発酵食品を多用していることも注目されるべきでしょう。
そして和食を支える発酵食品は、多くの場合“微生物三人衆”が何とかしているのです。
微生物三人衆
微生物三人衆とは、麹カビ、酵母、乳酸菌です。
麹カビ
麹カビは学名「アスペルギウス オリゼ」。
オリゼはイネ科植物の属名「オリザ」に由来します。
自然界では、イネの病気を引き起こす黒カビです。
稲穂に感染して種子である米をダメにしてしまいます。
しかし、米のデンプンを分解する強い力を買われてデンプンの糖化に利用されています。
日本では長年にわたる優良株の選抜の結果、色素を作らない突然変異体が見つかり、現在広く利用されています。
日本人は白色を尊ぶ(白米、白無垢、潔白。白を善とする例は沢山あります。)ところがあり、白いカビで作る麹が好まれます。
このため日本酒は無色透明の“清酒”になったわけです。
黒色の麹カビから白色株が発見される過程で黄色株等も見つかり、現在では焼酎生産には黒麹や黄麹が使われることもあります。
麹カビは強力なデンプン分解酵素(アミラーゼ)やタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)を持っています。
このため豆類のタンパク質を分解してアミノ酸(うまみ成分)を作ります。
この反応を利用して作られるのが、味噌です。
蒸した大豆に麹を加えて、麹カビの持つプロテアーゼで大豆タンパク質を分解します。
製造の際に加える麹には、主に米麹、麦麹、大豆麹の3種類があります。
九州では麦麹、名古屋近辺では大豆麹、その他の地域では米麹が用いられます。
勿論、大豆、米、麦にはデンプンも含まれるので、これはアミラーゼによって糖になります。
味噌はペースト状ですから、容器に仕込むと内部は嫌気状態です。
「嫌気状態+糖」となれば乳酸菌が盛んに乳酸を作り、pHが低下します。
そして「嫌気状態+糖+低pH」となると次は酵母の出番です。
酵母
酵母はアルコールや有機酸を作ります。
アルコールと有機酸が共存すると、これらが脱水結合してエステル化合物が生じます。
エステル化合物の多くは良い香りの元となり、味噌の風味を醸し出します。
味噌の製造過程で生じる液体成分が醤油の原型です。
味噌に溜まるから「溜まり醤油」。
もっとも現在ではより液体成分(醤油)を多く作るように工夫されています。
発酵食品の製造で活躍している酵母はほとんどが学名を「サッカロマイセス セレビジエ」という1つの種です。
パン酵母、清酒酵母、焼酎酵母、ビール酵母、ワイン酵母も同じくこの「サッカロ・・」です。
同じ種の酵母でも個性(品種)に応じて自然と使い分けされているのです。
これはキャベツとケールとハナキャベツが同一の種であるのと同じです。
ちなみに「サッカロマイセス セレビジエ」には「糖を食べるもの」の意味があります。
乳酸菌
乳酸菌は名脇役です。
乳酸を作ってpHを低下させ、他の細菌が生育できないようにします(これを静菌作用と言います)。
ついでに乳酸菌自身も死んでしまうのですが・・(ちょっと残念。)。
酵母が安心して活躍できるのも乳酸菌が「場を清め」てくれたお陰です。
乳酸による静菌作用は、多くの保存食を作っています。
例えば漬物。古漬け、ぬか漬け、キムチ等、ほのかに酸味のある漬物は乳酸菌の賜物です。
活躍している乳酸菌は酵母や麹カビのように1つの種ではありません。
様々な種の乳酸菌が発酵食品の製造環境に柔軟に対応しています。
この辺りも、いかにも名脇役っぽいです。
技術顧問 博士(農学)
茂野 俊也(Toshiya Shigeno)