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コラム#13 「昆布の旨味は微生物が作っている!?」
2019.05.07更新
旨味の歴史
“UMAMI”は今や世界で通じる単語です。
日本食の特徴の1つが出汁ですが、出汁の味が“旨味”です。
昔の欧米の学者は、旨味は単に甘さ等の複数の味覚が重なり合って生まれるものと考えていました。
しかし旨味の元となる物質がL-グルタミン酸であると証明したのが、東京大学の池田教授です。
実に1907年のことでした。
1909年には調味料「味の素」として発売され、現在では100%近い高純度のL-グルタミン酸が生産されています(世界で年間約170万トン)。
当初はコムギグルテン(麸の原料)を加水分解して作っていましたが、現在ではグラム陽性細菌の1種コリネバクテリウム グルタミカムによって作られています。
世界的な常識を覆す「アミノ酸発酵」はこれ以降、日本の“十八番”となったのです。
微生物のスクリーニング
自然界にあまた存在する微生物の中から、目的とする微生物を見つけることを「スクリーニング」と言います。
日本語にすれば「篩い分け」です。
豊かな土壌なら1gに100億匹程度の微生物がいます。
可能性は充分、「求めよ、されば得られん」状態です。
ポイントは有効な篩い分け方法を考えることです。
グルタミン酸生産菌のスクリーリング方法
グルタミン酸生産菌のスクリーリング方法は洗練されたものでした。
①グルタミン酸要求性微生物の作製
まず最初に「グルタミン酸要求性微生物」を作ります。
例えば大腸菌に薬剤処理や紫外線照射等の変異処理を行って、グルタミン酸を自前で合成できない突然変異体を作ります。
変異処理をした大腸菌をグルタミン酸入りの固体培地(培養液に寒天を加えてゼリー状にしたもの)の表面で培養します。
微生物を充分に希釈して固体培地表面に塗布すると、固体培地表面には1個の細胞から増殖した細胞集団(コロニー)がいくつもできます。
②コロニーの移し替え
次にこれらのコロニーをグルタミン酸だけを除いた固体培地に移し換えます。
グルタミン酸を自前で合成できない変異体のコロニーは当然ながらこの固体培地表面では生育できません。
生育(コロニー形成)にグルタミン酸を必要とする微生物はこうして得られます。
日本の研究者はこのコロニーの移し替えに“爪楊枝”を使います(ちなみに研究者は、爪楊枝の先端を使う派と、頭側を使う派に分かれます)。
爪楊枝は安くて、使いやすい、強力な武器です。
爪楊枝のなかった欧米では、ネジ等を使っていたらしいです。
あるいはもっと効率性を求める時は、殺菌したビロード布を用いたスタンプを使います。
元の固体培地表面のコロニーをビロード布スタンプに押し付けて、次の固体培地に移すのです。
これを「レプリカ法」と言います。
③“グルタミン酸生産菌”のスクリーリング
そして、いよいよ“グルタミン酸生産菌”のスクリーリングです。
グルタミン酸だけを除いた固体培地にグルタミン酸要求性微生物を少し混ぜたものを作ります。
この固体培地表面に自然界から採取した試料由来の微生物を塗布すると、多くの微生物が固体培地表面で生育しコロニーを作ります。
そしてグルタミン酸を生産する微生物がいれば、周りの培地中にグルタミン酸が排出され、これを利用してグルタミン酸要求性微生物も生育します。
グルタミン酸要求性微生物の生育は個体培地の白濁で確認できる仕掛けです。
最初のグルタミン酸生産菌は、上野動物園にいたホロホロチョウの糞から得られたとのことです。
後に米国の研究者が調べたところ、鳥の糞からは高頻度でグルタミン酸生産菌が見つかっています。
何か理由はあるのでしょうが、詳細はわかっていません。
スクリーリング方法を考えて、多くの試料から目的微生物を得る。まさに財宝探し的醍醐味がここにあります。
技術顧問 博士(農学)
茂野 俊也(Toshiya Shigeno)