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コラム#11 「微生物を分類する(その2:生物観の大変革)」

2018.11.02更新

外見にあまり特徴がなくて、生殖を行わない微生物。

この単純かつ原始的な生物を分類するために、遺伝子を利用することになった経緯は前に紹介しました。

今回は微生物を分類する、生物観の大変革の話を始めましょう。

リボゾームの遺伝子

全ての生物が持っていて、遺伝子変異が起きていて(各生物間で少しずつ異なっていて)、でもその変異自身は生命活動において有利にも不利にもならない。
この様な遺伝子として、タンパク質の合成を行う細胞内器官「リボゾーム」の遺伝子が広く使われています。
リボゾームは大小のパーツからなるダルマさんの様な形をしています。

分類に使われるのは、主に小さいパーツの遺伝子です。
遺伝子はデオキシリボ核酸(DNA)と呼ばれる化合物で、これは「塩基-糖-リン酸」が結合した物質「ヌクレオチド」が沢山結合した高分子です。
ヌクレオチドには塩基の違いによって4つの種類があり、この4種類のヌクレオチドの並び方で遺伝情報が記録されています。
遺伝情報の多くは、タンパク質の設計図とその合成を制御する方法です。

リボゾームの遺伝子には、その機能に重要なヌクレオチドの並びとそうでもない並びがあり、“そうでもない並び”には種による変異(異なるヌクレオチドの並び)が見られます。
この変異を比べると、複数の種が各々どの位違っていて、どの種がより先祖種に近いのか?を計算することができます。
この計算結果を基に生物を分類することを「系統分類」と呼びます。

生物の系統分類

これまで生物は、植物界、動物界、菌界(カビ、酵母等)、原生生物界(藻類、アメーバ等)そしてモネラ界(細菌等)の5つの界に分類するのが基本でした(5界説)。
これは生物の外観や構造及び行動様式に基づく分類大系です。

しかし、リボゾームの遺伝子を根拠とした系統分類では、「真正細菌」、「真核生物」および「古細菌」の3つに分かれることがわかりました(3ドメイン説)。

真正細菌

「真正細菌」には一般的に細菌と呼ばれる大腸菌や乳酸菌等が属します。
「真核生物」にはヒトを含む動物、植物そして酵母やカビも入ります。
系統分類上、動物と植物の違いは大きな違いではありません。
多くの遺伝子研究によって、現在光合成を行っている生物も過去には光合成能力を失ったり、回復したりを繰り返してきたことがわかってきたからです。

真核生物

「真核生物」は他の生物を細胞内に取り込み、これを細胞内器官にしながら進化してきたと考えられています。
光合成を行う葉緑体は、かつての光合成細菌(シアノバクテリア)の成れの果てです。
細胞内でエネルギーを作り出す細胞内器官ミトコンドリアも昔は普通の細菌であったと考えられています。
これ以外でも、真核生物間での“取り込み/取り込まれ”は盛んに行われてきたと考えられ、真核生物の系統分類研究は複雑怪奇なものとなっています。

古細菌

ちょっと残念なのは「古細菌」です。
見た目は大腸菌や乳酸菌等の「真正細菌」とほとんど一緒ですが、細胞膜を構成する物質に違いがあります。
最初に古細菌が発見された場所は、海底の熱水噴出口でした。
このため「海底火山」⇒「原始地球環境」と連想されたのでしょう。
原始の環境で生まれた生物の祖先に近いのでは?と思われ、「古細菌」と呼ばれました。
しかし系統分類の結果からは、生物の祖先が「真正細菌」とその他に分岐した後、その他が「真核生物」と「古細菌」に分岐したものと考えられています。
つまり系統分類学的には、「古細菌」は「真正細菌」より新しいのです。でもいまさら“新細菌”とかに改名することもできず、といった状態です。

生物の分類大系の再考

しかしこれで生物の分類大系が決定したわけではありません。
日々新たな微生物が発見されています。
いずれは分類大系を再考する必要に迫られるかも知れません。


技術顧問 博士(農学)

茂野 俊也(Toshiya Shigeno