振とう機・振とう培養機 高圧蒸気滅菌装置
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コラム#9「振れ振れ酸素」
2018.08.03更新
酸素は空気中に約20%含まれています。
そして微生物は培養液、つまり液体中に漂っています。
つまり微生物に酸素を供給するには、気体から液体に酸素を移動させる工夫が必要です。
気体と液体が接する界面での酸素移動は、二重薄膜(境膜)仮説という理屈で説明されるそうです。
「気体⇒気体側薄膜⇒液体側薄膜⇒液体」の道順(ステップ)で酸素が移動すると仮定することで、様々な現象が理解しやすくなるのだとか。
各ステップの中で最もハードルの高いのが「液体側薄膜⇒液体」の移動です。
この移動に係る抵抗係数をKL(正確にはKはイタリック、液体側薄膜を現すLは小さくして添字にします。)と表します。
そして液体側薄膜の面積(液体と空気の接触面積)を液体量で割った値(比界面積、aと示します。)とKLを掛けた「KLa」が気体から液体への酸素移動速度を決定します。
ただしKLもaも各々独立して測定することが大変難しいので、一般的には両者の積「KLa」を容量係数と呼んで、これを酸素移動速度の指標としています。
とはいえ、KLは液体の組成やpHあるいは温度でほぼ決まってしまいます。
そして微生物の培養条件である培養液組成やpHそれに培養温度は、そんなに変えることができません。
従って酸素移動速度を大きくするには、比界面積aを大きくするより有効な手立てはないのです。
振とう培養機
当社が製造販売している培養機は“振とう培養機”です。
これは培養液の入った容器を回転振とう(一定方向にグルグル円運動)あるいは往復振とう(同じ線上を行ったり来たり)して、培養液と空気の接触面積を大きくする装置です。
※当社が製造販売している培養機の詳細は「振とう機・振とう培養機」を参照
回転振とう
回転振とうの場合は培養液を三角フラスコに入れます。
回転により遠心力が生じて、培養液はフラスコの外方向に引っ張られるので、内壁に沿ってすり鉢状に広がります。
【回転速度】
ならば遠心力を大きくすれば(回転速度を上げれば)、より効果的なはず。しかし同じサイズのフラスコでは回転速度を上げても、限度があります。
当社の実験では90-150rpm(1分間当たりの回転数)で、KLaはあまり変わりません(2倍にもなりません)。
つまり、ある程度の回転速度があれば、フラスコ内に広がる培養液の表面積は大差無いということでしょう。
【培養液量】
それならばフラスコに入れる培養液量を減らす方がKLa増大には有効です。培養液量を半分にすれば、簡単にKLaは2倍位になります。一般的に培養液量は、フラスコ容量の10分の1です。
フラスコに大量の培養液を入れて、むやみに回転速度を上げるのは、お勧めできません。
充分な酸素供給ができないばかりか、重たくなったフラスコが固定金具から外れて、思わぬ事故の原因となります。
フラスコが破損すれば、培養実験は失敗、振とう培養機の内部の掃除、拭き残しの培養液は錆びの原因、さらにカビが生えて・・・。良いことは1つもありません。
往復振とう
回転振とう培養機に比べるとあまり使われていませんが、往復振とう培養機は高いKLaを実現する培養機です。
これには肩付きフラスコと呼ばれるリンゴ型の本体に長い首の付いたフラスコが使われます。
別名(こっちが本名か?)を「坂口フラスコ」といい、東京大学の坂口謹一郎教授(故人。日本の発酵学の始祖的な研究者)がカビを培養する(ペニシリンの製造研究とか)ためにデザインしたものです。
英語では「シェイキング・フラスコ(振とうフラスコ)」と訳されます。
緩やかな振とうでも、本体内壁に沿って上昇した培養液が肩部分にぶつかって飛沫となります。
このためKLaが大きくなり、酸素を多く要求するカビの培養に適しているのです。
ただし坂口フラスコは内部が洗い難いと言う欠点があります。
難しい好気培養
小さい容器での培養は、培養液が広がる余地が少ないのでKLaを大きくすることが大変です。
例えば、多数の試料を培養するには不可欠な試験管。試験管を用いた好気培養では試験管を斜めに固定して、倒した方向に対して直交する方向に往復振とうします。
こうすると培養液は試験管内壁を伝わって広がります(スノーボード・ハーフパイプ競技みたいに)。
倒す角度はなるべく水平に近い方が良い(培養液と空気の接触面積が大きくなる)のですが、振とう中に培養液がこぼれない様に注意が必要です。
このように微生物に充分な酸素を供給することは、好気培養の基本ですが、結構難しいことなのです。
技術顧問 博士(農学)
茂野 俊也(Toshiya Shigeno)