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コラム#6「糖から? デンプンから?」
2018.04.23更新
今回は糖化反応について紹介します。
酒の分類で一般的なのは、“醸造酒VS蒸留酒”でしょうか。
アルコール発酵物をそのまま、あるいは濾過して飲むのが醸造酒です。
アルコール濃度は多くの場合一桁%、かなり頑張っても20%以上にはなりません。
これに対してアルコール発酵物を加熱してアルコールを多く含む蒸気を作り、
これを冷やしてアルコール濃度の高い液体を回収するのが蒸留酒です。
理論的には純アルコール(濃度100%)の酒(もはや試薬?)も可能です。
でも“醸造酒VS蒸留酒”は、アルコール発酵が終わってからの後処理工程に基づく分類、やはり微生物的には“糖の酒VSデンプンの酒”に注目するべきでしょう。
アルコールの作り方
前回、サッカロマイセス属酵母は糖分のみを分解すると紹介しました。
このためブドウ果実のように糖分の多い原料(甘い原料)は容易にアルコール発酵ができます。
甘い原料としては、果実の他にも蜂蜜や樹液があります。
アフリカ流 アルコール
例えばヤシ酒。ヤシの実を原料にしているイメージがありますが、原料はヤシの樹液です。アフリカの伝統的な作り方は、ごく簡単です。
朝、農作業に出かける前にヤシ樹の芽の先端(成長点)を切り落とします。
ヤシは成長点に向けて糖分を含む栄養液(樹液)を送っていますから、切り口から樹液が溢れ出します。
これを容器に受けるだけで、環境中にいる酵母が勝手にアルコール発酵を始めてしまうわけです。
暑いアフリカならお昼すぎにはアルコール数%の軽い酒が出来上がります。
暑い日中は仕事をしないでヤシ酒で休憩というのがアフリカ流です。
メキシコ流 アルコール
ヤシ酒を飲む機会は中々ありませんが、龍舌蘭の樹液から作る酒なら容易に入手できます。
それがメキシコのテキーラ。ヤシ酒と同様に龍舌蘭の成長点から樹液を採取してアルコール発酵後、蒸留して作られます。
さらに特徴的なのは、アルコール発酵の担い手が酵母ではなくて細菌(ザイモモナス モビリス)である点です。
糖からアルコールができることには変わりありませんが、反応過程(代謝経路)が異なります。化学反応式がお好きな方は調べて見てください。
伝統的な糖化
繰り返しになりますが、デンプンの様な多糖はそのままではアルコールになりません。
多糖を分解して糖にする工程(糖化)が必要です。伝統的な糖化には3つの代表的な方法があります。
伝統的な糖化⓵
1つ目は、“口噛み”です。私達の唾液にはアミラーゼというデンプン分解酵素が含まれます。
ご飯を噛むことで甘味を感じるのは、アミラーゼの働きによるものです。かなり昔には穀物を咀嚼したものを原料に酒が作られました。
今では「ウゲッ」とか「汚い」とかになりそうですが、古代ではシャーマンの力を得るといった呪術的な意味もあったのでしょう。
伝統的な糖化⓶
2つ目は“発芽”です。前に紹介した麦芽のように種子の発芽に伴う糖化反応を利用したものです。
麦以外にも南アメリカではトウモロコシの発芽を利用した酒があります。
伝統的な糖化⓷
そして最後は“カビ”です。多くのカビはアミラーゼ等のデンプン分解酵素を作ります。
カビも生育のためにはデンプンを分解して糖を得なくてはなりません。この点、カビも酵母もヒトも同じです。
驚きの日本酒
カビの利用は日本、中国など東アジアに広く伝わっていますが、その起源は不明です。
インド辺りにルーツがあると考える研究者もいますが、宗教上の問題で禁酒時代が長く続いたため、古代インドの酒造技術は謎のままです。
カビによる糖化を利用した酒の代表は、なんたって日本酒です。日本酒では麹カビ(アスペルギヌス オリゼー)を使います。
「オリゼー」が稲の学名に由来するぐらいに米と縁の深いカビです。麹として利用されるのは、オリゼーのアルビノ(色素を作らない突然変異種)です。
このため酒に色が付かず、日本酒は「清酒」と呼ばれるほど無色透明なのです。蒸した米にオリゼーを接種して麹を作り、糖化が始まった頃合に酵母を接種します。
日本酒はカビと酵母(詳しくは、これに加えて乳酸菌なども)を同じ容器で培養しながら作ります。複数の微生物を“混合培養”して再現性のある結果を得ることは、実験室でも結構難しいものです。近代的な設備や科学的知識の無かった時代から日本酒が作られてきたのは、まさに驚きです。
さらに驚くべきは、日本酒は醸造酒(蒸留していない)のくせにアルコール濃度が20%位に達します。これは醸造酒の世界記録です。次回はこの秘密を解き明かしましょう。
技術顧問 博士(農学)
茂野 俊也(Toshiya Shigeno)