株式会社プリス

振とう機・振とう培養機 高圧蒸気滅菌装置

コラム#4 微生物が作る風景

2017.12.01更新

 

前回までは微生物をいくつか紹介してきました。

今回もう少し視野を広げて、普通に目にする風景や物にまつわる微生物のお話、微生物の共同生活についてのお話です。

 

 

水中での共同生活

サンゴの白化

青い海と白い砂。海中には色とりどりのサンゴと沢山の魚。
憧れの南国の海の風景です。でも最近は世界的にサンゴが死んで白くなる現象(白化)が多発しているとか。
沖縄でもサンゴの白化が深刻と伝えられています。白化の原因は2つ。海水温変化(多くは高温化)と海水の濁りです。
サンゴは褐虫藻(渦鞭毛藻あるいは渦鞭毛虫とも呼ばれる微細藻類の仲間。生物の分類では、動植物の区別はあまり意味がないので、こんなことに。詳細はまた別の機会に。)
という光合成をする微生物をその体内(胃の中)に飼っています。
サンゴは褐虫藻が光合成して生産する有機物を食べて生きているのです。
一方、褐虫藻はサンゴの体内にいることで、サンゴが排泄するミネラルを利用したり、他の生物に捕食されるリスクを回避しています。
このように複数の生物が互いに利益を得ながら共同生活することを「共生」と言います。

光合成の必要性

つまり海水が濁って太陽光が届かなくなったり、遮断されると褐虫藻は光合成できなくなり、サンゴは餓死します。
ですから土木工事で発生した土砂が河川から海に流れ込むのもサンゴ・褐虫藻チームにとっては致命的です。
そして海水温変化は褐虫藻の光合成能力を低下させたり、場合によっては死に至らしめます。また光合成能力の落ちた褐虫藻をサンゴが消化することもあるようです。
サンゴの生息域が限られているのは、海水温と海中における日照という2つのシビアな条件があるためです。
さらに地球温暖化の影響で海水温が上がると、海水面上昇が起きて移動のできないサンゴはより深くに沈む結果となり、太陽光不足になってやはり死に至ります。

仲良しこよし

ところでサンゴ・褐虫藻チームは大変に気前の良いコンビです。褐虫藻は、光合成で得られたエネルギーの90%以上をサンゴに与えてしまいます。
もらったサンゴもお人好しで、その半分以上を有機物として海水中に放出します。
この水溶性の有機物は微生物(主に細菌)の栄養となり、微生物という固体物に変化した有機物はもう少し大きな生物の餌となります。
珊瑚礁に多くの生物がいるのは、この気前の良いコンビの働きによるものです。そしてその結果の一部は海産物として私達の食生活を彩るのです。
このようなことは「弱肉強食の自然界」というイメージとは違い相互扶助的です。
古い進化論では、競争こそが進化の原動力と考えられましたが、最近(ちなみに、私のPCはサイキンと入力すると細菌が出ます。)では競争よりも共生の方が進化を加速すると考える研究者が増えています。

陸上での共同生活

海に限らず、微生物と共生する生物は陸上にもいます。
マメ科植物と窒素固定細菌の組み合わせは、その代表例でしょう。
春先の田んぼを彩る一面のレンゲ畑。濃いピンクの風景は、春の里山の魅力の1つです。
マメ科であるレンゲの根には、根粒というコブがあります。このコブの中には窒素固定細菌がいて、空気中の窒素をアンモニアに変えています。
窒素固定細菌は極端な酸素嫌い(嫌気性と言います。)で、酸素に触れると死んでしまいます。
根粒の中にいることで酸素に触れることなく、しかもレンゲから供給される有機物を使って増殖ができます。
宿主であるレンゲは窒素固定細菌の作るアンモニアを利用することで生長します。植物といえども、体を構成するタンパク質を合成しなくてはなりません。
タンパク質の元はアミノ酸、そしてアミノ酸を合成するにはアンモニアが不可欠です。
自然界においては、アンモニア等の窒素分は希少です。植物にとってアンモニアの確保は最重要課題なのです。
窒素固定細菌の働きにより、マメ科植物は窒素分に乏しい痩せた土地でもよく育ちます。
作付前の田にレンゲを植えるのは、レンゲと一緒に窒素固定細菌が作ったアンモニアを鋤込んで、稲がよく育つようにするためです。

ビールのおつまみ♪

さて豆といえば、ビールに枝豆。花見に、あるいは暑い日の夕方に、いいですよね。
近頃では日本食ブームのお陰でEDAMAMEは海外でも通じる国際語です。ご承知のように枝豆はダイズの若い実です。
もちろんマメ科のダイズも根粒を持ち、その中に窒素固定細菌がいます。つまり、「ビールに枝豆」も微生物が作る風景なのです。
そして、もうお気づきでしょう。そう、ビールも微生物である酵母が作っています。


と、言うことで、次回は微生物が作る食品や飲料のお話です。

技術顧問 博士(農学)

茂野 俊也(Toshiya Shigeno